侵略方法
わたしは観光地に住んだことがあるので、観光客が目的地(大手の観光施設だったりする)に車で直行し、食事や買い物もコンビニや大手チェーン店で済ましてしまうのが、あまり嬉しくないってことを知っているつもりです。
でもチベットでは、もっと複雑で深刻なんじゃないかと思います。
3日滞在しただけの浅い考えですが。
わたしが、ブルジョワ漢民族ツアーで行ってしまったのは、中国の商売にお金を落としただけでなく、チベットという場所での漢民族の商売そのものを承認して後押ししまったことにもなるだろうし、部外者のわたしがチベットの人への挨拶を中国語でしてしまったのは、侵略者の言語である中国語を「共通語」「正規の言語」扱いしてみせたことになってしまうと思うのです。
もちろん、わたしなんて取るに足りない1旅行者だし、現地の人もなんとも思ってないとは思いますが、こういう取るに足りない積み重ねも、チベットにおける「中国」の存在を普遍化したり「経済のあり方(消費主義)」を強化してしまう要因のひとつだと思うのです。だからすごく後悔しています。
ところで、「侵略者」と書いたけれど、こんな強い言葉を使っていいのか、わかりません。ただ、(チベット語よりも大きな字で)中国語の看板が立ち並ぶ街で、高級ホテルの前には、到着した客の荷物を運んでチップをもらおうと2,30人のチベット人が待ち構えて競争で荷物を取り合っていて(←遠巻きにみた観察なので、実際は違うことをしていたかも)、川端にテントもなく住んでいる人たちや物を乞う人がいて、一方で、軍人や警察や道路開通の記念碑やオリンピックの宣伝なんかが華やかに飾られているのを見ていると、難しい気持ちになるし、高山病が加わって憂鬱にもなってきます。
そんななか、「五体投地」という全身を使ってひれ伏すような礼拝をしている人々のすぐ前で、ガイドに「写真とっていいですよ」と言われるのも、ガイドは親切というかそれが仕事なのだろうけれど、人が祈ったり生活してるところをこんなかたちで「写真にとって良い/ジロジロ見てもいい」って言われるのは、わたしとしてはものすごく複雑でした。「高山病観光」からいっきに「トリンT. ミンハ的観光」になりましたよ。(これについては、もっと感じたことがあるのだけれど、わたしの能力を超えているのでうまく書くことができませんが、)わたしは部外者で侵入者で、侵略者に加担する者になってしまった気になったのです。
もちろん、現地の人もガイドも、勝手にコロニアル気分になってるわたしなんかお構いなしなんですけれど。
ラサのナイトクラブでは、別の「侵略者」を見ました。ナイトクラブのコントに登場したのです。
ツアーの日程は、夕方のご飯で終わって、あとはホテルで休みというものでしたが、二日目の晩、少し身体が慣れてきたわたしたちは、ガイドに電話して夜遊びに行ける場所を聞いてみました。そして、ガイドとその友達と一緒に、最近ラサに増えているというナイトクラブへ行くことになったのです。
ナイトクラブは、大きなステージのある大きなクラブで、ステージ上では次々と、歌手が歌ったり、チベット舞踊みたいなのが繰り広げられたり、お客も混ざってフォークダンスやディスコを踊ったり、9時くらいから始まって夜明けまで続くクラブでした。(わたしたちは夜中の1時でギブアップ。)
行く前に、ガイドは「チベットの文化がわかるショーですよ」と言ってましたが、わたしはうっかり敵意を抱いてしまいそうなほど「絶対違うね!」と思いました。こんな大雑把な態度で他人ちの文化をどうこう言うってどうなのよ?!って思うので。でも、まあそれはさておき、チベット人の歌や民族舞踊を見せる、この手のナイトクラブが増えるってどういうことだろう?もしかして「文化売春」?あるいは、「文化交流」?あるいは「文化伝播」? お客は何人いたかわからないけど、100人?200人?かな、とにかく結構たくさん。中国人とチベット人が半々って感じで、バド・ガールみたいな格好をしたおねえちゃんも働いています。
で、ここでの出し物のひとつのコントに、「日本人」が侵略者として登場したのです。
わたしには言葉が一切わからないので、どの出し物もボヤーーっと見ていたのだけれど、このコントではどうも「ハイ!」「ハイ!」とか、日本語っぽいものが聞こえます。ガイドさんと友達は、クスクスしながらときどき決まり悪そうにわたしの方を見ています。どうやら「日本人」が話題になってるらしい。
それはだいたいこんなコントでした。
日本の軍人がチベット人に向かって色々と命令している。軍人はすごく威張っていて(「バカモノ!!」という日本語も頻出)、チベット人はそれを「ハイ!」「ハイ!」と言って聞くが、どうもおっちょこちょいで役に立たない(ここでいろいろ笑いを取る)。どんな軍人の命令がどんな内容かわからなかったけれど、やがて中国人の軍人だか中国共産党の党員だかが日本人の敵として現れる。で、実は、チベット人とこの中国人は影で手を組んでいて、最後には力を合わせてこの日本人の侵略者をやっつける!という内容でした。
たわいもないコントといえばそれまでだけど、日本軍云々はさておき、こういうふうに仮想の「侵略者」を見せて、中国人とチベット人が仲良く統合するっていう筋書きは、あまりに安易で興ざめがします。思わずこのコント考えたの中国政府だろ!!と言いたくもなります。
「こんなのひどいやい!!!」と、無知ながらも強く疑問に感じたのですが、そんなわたしをよそに、舞台ではさっさと次の出し物が続き、お客さんも数人ステージに上って踊りはじめました。
ええーっ、みんな、そんな丸め込まれ方でいいの?!目を覚ましなさいよ!!
と思ったのですが、このナイトクラブ、入場料はないけれどお茶が一杯40元(600円)以上(アルコールはもっと高かった。)これって、かなり高いと思います。(バター茶を飲んだお店は確かバター茶ポット一杯が3、4元くらいだったような。ちなみにナイトクラブにバター茶はありませんでした。)だから、ここに来るのは「中国人とチベット人が半々」というよりは、ちょっぴり豪華に遊びに来た人たち100%なのかもしれません。
、、なんて考えているところに、ガイドさんの友達が「踊りに行きましょうよ!」と、、、、で結局わたしもステージでフォークダンスとディスコに下手に混ざり、すっかり丸め込まれたのでした。恐ろしきかな、娯楽の力。
侵略は楽しい消費に丸め込まれてやってくる。ズバリ、これが後期資本主義の支配形態でしょう。(急に話を大きくしてまとめてみました。)
(写真はそのときのショー。シャッターチャンスを逃しっぱなしで、この場面しか撮れなかった。カワイイ人もいました、うふふ。)