帰省先

spongey2005-12-26

わたしは母親に世界で一番えらい人はエリザベス・テイラーだと教わって育ちました。大人になった現在、やっぱり世界で一番えらいのはエリザベス・テイラーだよね!と賛成しているわけですが、よそのお宅でもだいたいこんな適切な教育をしてますよね?


母の若い頃のスケッチ・ブックを見ると、家族や飼っていた犬や近所の風景に混ざって、ハンフリー・ボガードジェームズ・ディーンのスケッチもあって、「微笑ましいわ」と思ったのですが、実はこれだけでなく思い出のアルバムにも、俳優のプロマイドが家族や友だちの写真と区別なく入っていて、母親はいったいどんな現実感を生きてたんだろ?と不安がよぎりました。

ブドウを食べるときには必ず、「昔見た映画で女優がこうやって食べていた」と言って、ものすごく食べにくそうな食べ方をしますが、結局上手くいかないので夢でも見てたんじゃないかと思うのですが、今でもくじけずチャレンジしています。


そんな異次元の母親ですが、子供をいじめることに関しては、的確かつ効果的な行動をします。
まだ幼稚園くらいのころ、わたしは高熱を出して数日寝込んでいたことがあります。可哀相に、おかゆしか食べられず、目を開けると涙が出てきてしまうほど熱を出したのです。そこへ帰ってきたのが、酔っ払って上機嫌の母。健気なわたしは「おかえり」と声も出ないので囁くのがやっとでした。そんなわたしの具合を知ってか知らずか、「お土産もってきたわ!!」と母は陽気に、わたしの手に赤い袋を持たせました。その赤い袋は熱で弱っているわたしの手にはズッシリと重くて、思わずボロッと手から落ちてしまいました。「あらやだ、こうやるのよ、ホラ」と、母は袋のスイッチを入れながら熱で震えるわたしの手に戻しました。
それは笑い袋。病気の子どもに笑い袋。
ワハハハハハ、アハハハハハ、ワハハハハ
悪魔のような笑い声が手の中から頭へガンガンと響き、わたしはショックのあまりその場で声をあげて大泣きしました。今だったら、一言言うところですよ、病気の子供に笑い袋っていったいどういう神経してんのよッ!人でなしの鬼母としか思えません。
でもそのときのわたしはもう苦しいだけだったので、「喜ぶかと思ったの、、ごめんね」という鬼の言い訳を泣きながら聞き入れるしかありませんでした。かわいそうなわたし、よくぞこんな立派な人間に育ったものです。


今でもすごいなと思うことがもう一つあります。
小学校のころ、ある春先の早朝、母がわたしを揺り起こしました。
「起きてごらん、雪が降ってる、積もってるよ!」
「ええっ!うそーっ!!!」 
雪がそんなに見たかったかどうかはさておき、わたしは飛び起きて、パジャマのまま玄関へ走りました。犬までワンワンと走り寄ってきて、犬と一緒に勢いよくドアを開けると、、わたしの目に飛び込んできたのは、雪のユの字もなく、いつもどおりの庭先にいつもどおりの日が差し、小鳥さんが春らしくピヨピヨと鳴いているほどいつもどおりの風景。雪が降ってるっていうのは、、
、、え、、うそ?
まだ事態が飲み込めないわたしの背後で「あはは、エイプリル・フールよ!」と満足そうな母。そんな春の雪…よくぞわたしは素直な大人になったものです。


去年のいまごろ、母親に「ねぇねぇ、わたしの世界で一番好きな映画なんだと思う?」と可愛らしく聞いたら、
「コレクターでしょ」
、、って、いったいわたしをなんだと思ってるのかし、なんであんな陰湿な気味悪い映画が世界一好きなのよ。

と思ってふと気づいた…もしかしたら母なりに「この子って、、、気味が悪い」と思ってるのかしら、、親だって自分の子を気持ち悪いと思うことあるものね、、、失礼しちゃうわ!

そろそろそんな人に会いに行きます。