タップ・シューズ

わたしの「ひらめき」には、なかなかスバラシイものがあります。
その一つが「タップ・シューズ」です。


中学生のとき、ある映画で初めてタップダンスを見ました。手品みたいに足で音を出していながら踊っているのを見て、わたしはたちまち魅せられました。「あれはなんだろう?カッコいいなぁ、、わたしもやりたい!!」
映画のあと、さっそく陰に隠れて真似をしてみましたが、もちろんうまくいきません。人に聞くと、それは「タップダンス」と言うダンスの種類で、特別な靴が必要で、そのうえ、特別な練習が必要とのこと。
「なるほどね、、」と思った瞬間ひらめきました。といっても、タップダンスを習おう!と思ったわけではありません。そんなこと思いつく頭があれば、今ごろ「特技はタップダンス」と自慢できたのかもしれませんが、、、わたしには思い浮かびもしませんでした。わたしがひらめいたのは「あの音がする靴を作ろう!」ということです。


学校といえば、上履きと画鋲がつきものです。
落ちている画鋲を踏んだまま教室を歩くと、カチ、カチと音がしましたよね?でも、上履きに画鋲を刺す程度では、タップの音にはなりません。それくらいでタップダンス風の音が出ていれば、とっくに誰かがやっているはずです。そこでわたしは画鋲は脇役に使い、タップダンス風の音を出す可能性を空き缶に求めたのです。天才としか言いようがありませんね!


まず、ジュースの缶をはさみで切り、4枚の長方形のアルミ板?にします。で、手を切ったり床にキズをつけないよう、切り口にテープします。(こういった気遣いも偉いですね。) この4枚の長方形のアルミ板を、左右それぞれの上履きの先の部分とかかとの部分に、画鋲でとめます。
するとどうでしょう。
ワンステップで「カチャッ」ではなく「カチャカチャッ」とツーステップ踏んだような音がするのです。わたしの考えでは、たぶん画鋲の音に缶の音が重なっているせいだと思います。缶を切り取っているので、板とはいえ、丸みを帯びています。それが踏まれることによって、急激に平らにされて「カチャ」と音が出て、踏んだ後に足をあげると、元の丸みを帯びた状態に戻るべく「カチャ」と音がする、そのためにワンステップで「カチャカチャッ」と音が出るのだと思うのですが、実際のところは知りません。とにかく、画鋲と缶の切れ端で「カチャカチャッ」とタップダンスらしい音が出たのです。


これだと、普通に歩くだけでカチャカチャカチャカチャとじゅうぶんタップを踏んでるっぽく聞こえます。それらしいステップをして、ちょっと合間にポーズを入れれば、タップダンスそのもの(風)になるのです。偶然これをお読みになったみなさま、機会あらばお試し下さい。(、、どんな機会だろ?)


クラスメートにも誉められましたが(爆笑もされましたが)、わたし自身がものすごく気に入りホレボレしたので、しばらくこのままの上履きで暮らすことにしました。われながらアホですねぇ。トイレに行くにもカチャカチャカチャカチャと。そこらじゅうから「おめー、それなんだよ!」とかからかわれても気にしません。すでに心はタップダンサー、足元から響く音はタップダンシングですもの。

しかし、、そんなわたしの天才的な工夫の前に、あっと言う間に黒雲がたちこめました。
「こらっ。お前また!なんだ、それは、、」ガツンッ!
それは担任の教師でした。ガツンはゲンコツが頭に響いた音です。「お前また!」というのはいつも叱られていたからです。


何十年経ったいまでも、なんでゲンコツをもらったのかわかりません。創意工夫だけでなく、安全も考えてテーピングまでしてたのに、、、。
確かなことは、こうしてわたしのアイデア能力の芽は摘まれていったということです。もしかしたら、あのタップ上履きは大流行し、お琴の世界における大正琴のような地位を、タップダンス界で築いていたかもしれません。きっと築いていましたとも!それなのに、、、うらめしや、いえもんどの、、。


、、、と、こんな立派な発明を、今日友だちが思い出させてくれました。「自分のアイデアなんだから絶対忘れない」と思っていましたが、今となってはひらめいたことすら覚えていないことがたっくさんあると思うので、思い出したらブログに書いておこうと思った次第です。