親分

【はじめに】
作者の山中恒さんは、ゆうめいな児童よみもの作家で、たくさんの小説がドラマや映画になっています。『あばれはっちゃく』『さびしんぼう』『転校生』など。


しかし、わたしはこれしか読んだことがありません。
『ボインでゴメンなすって』
これが山中作品のなかでどのような位置を占めるのか、また、どのようないきさつで出版されたのか知りません。検索しても書評らしきものは見つけられませんでした。(もしかして、あまり読まれてないのかし?、、わたしが持ってる一冊が超高値でありますように!、とほのかに期待をつのらせつつ)それなら勝手し放題ですな!と勘違いにエンジンをかけて、この本を再び読んでいきたいと思います。


この本は、一話読みきりで、全12話です。ひょっとして雑誌に連載されていたのかもしれません。
中学生たちが主役の読み物です。


実は、この話、手抜きなのか、計算されてるのか、はたまた一話読みきりのせいか、全体像がとらえられないハナシなんです。楽しそうな登場人物が揃っているのだけれど、この子たちに、最初から最後まで「変化」がみられない。なんつーか、物語を通じて人物像や何かが発展したように思えない、、つまり「一つの大きな物語」として捉えられないのよね。かといって、一話一話も物足りないし。

たとえば、親分は祖父母に育てられているのだけど、祖父母には親分は「ひっこみじあんの泣き虫」と思われている。そんな子がなぜに親分になっているのか、こういうのが描かれていたりすると、「理解できる一つの物語」になる気がするのだけれど、そういうことは全部うっちゃらかってある。、、そういうのはそういうのでわたしは好きだけど、でも、この小説の場合、意図的というより、ただ中途半端なだけなんだよね。

というわけなので、全体をつかめないのをいいことに、わたしも好きなところをかいつまむだけにしました。(…長い言い訳だ。)


さて、お話のほうを大まかに説明すると、

【あらすじ】
ナントカ中学校2年C組に転入生が入ってきます。この転入生は、いきなり「おめえ子分になれ」と、そのへんの男子二人を子分にします。突然「子分になれ」といわれた男子は暴力で抵抗します、が、彼女はそれを力でねじ伏せるのです。こうして彼女はこれから親分となります。


いったい何のための親分/子分か、物語のなかにその説明はなく、ただ親分子分(と呼び合う程度)で関係がつくられている。実は、この「親分-子分」というのは、規範的な「男-女軸」において、この子たちが自分たちなりの立ち位置を獲得する自分たちなりの媒体手段、という視点から見るべきだと思うのですが、そこまで深遠に考える気力がないので、まあいいとしよう。


そして、一方で、この親分の登場を快く思っていないクラスメートがいる。品行方正、学力優秀、容姿端麗のクラスの女王陛下、黒田勝子(クロカツ)という人物です。


 話のおおよその流れは、親分とクロカツの対決で作られている。
もっとも、クロカツの方がイジワルを仕掛け、親分はそれを懲らしめながら切り抜けていく、というのが各回読みきりの事件である。そのなかにときどき、子分たちのイタヅラや、他の学生とのボイン的やりとりがはさまっている。(われながら「ボイン的やりとり」って何だよ。)
とまあ、そんな感じの話なのです。


【怒るべきか判断つきかねる】
前にも書いたように、これ、判断つきかねる。
登場する女子は、その容姿によってのみ評価されていて、いつでも、何をおいても、「からだ」であることを求められている。どの回も、エッチなウハウハで読者諸君をエンターテインしようとしてるんだけど、女子はいつもそのための対象として存在させられているのだ。いくら、子分たちは親分を大事にしてると書かれていようとも、全体を貫くこのセキシストな趣きは補えない。
だから、超ムカつく、のだ。


しかし、いっぽうで、それゆえに、邪念だらけのわたしが誤読する余地をいい加減にも残している気もする。
そしてわたしは、そんな断片をとりあげる、つもりなのです。たぶん。


というわけで、さっそく今日はその番外編を。
なぜ番外編かというと、これから話題にするのは夏休みの回なので、登場人物がいつもと違うのです。
、、まだ何も始めてないってのに、いきなり「番外」とはどういうこっちゃ!、、ではあるのだけど、よほど気をつけてないと、自分がこの小説の何をとらえんとしてたのか、サーーッと忘れちゃいそうなのです。だから一番わかりやすくて大声を出してるところから言っとかないと、というわけなのです。
ではでは、さっそく


【番外編:これって、おばさんの誘惑じゃないか】

第○話「    」 

夏休みにはいったばかりのある日、親分のもとに子分たちがやってきて、子分の兄の車で、西伊豆へ旅行することになる。
西伊豆に着いた親分たちを、子分の石松の「おばさん」が迎えるのだが、今回は、このおばさんとのやりとりに注目したい。


親分とおばさんがやり取りをしている場面では、男子たちは海へ行ったり、「海水に溶けるビキニ」を用意していて不在である。
よってここでは、「女同士だからヘンなことは起こらない」が暗黙の前提となっている。(「おばさん」という呼び方もその前提にあるのかも。)
しかもこうした前提をおきつつ、読者サービス用エッチ要素を盛り込んでいるので、この前提自体を崩してしまうとヘンなことになってしまいかねないのだ。いやいっそ、ヘンなこととして捉えよう、というのがわたしの目論見である。(それにしても、このスカスカ感ある小説で、、わたしも酔狂なヒマジンよのう、、。)



さてさて。まず、この「おばさんなる人物」、「鼻がきっと高く、ほりがふかくて、なかなかの美人だったが、その声は以外にしゃがれ声」である。(→美人だが、しゃがれ声。この接続助詞「が」はなんぞや?)
この人はまた、おばあさん(おばさんのおっかさん)に
「(…)フランスなんぞという、外国へ行ってかえってきてからは、このざまですよ。女のくせにフンドシなんぞしめて、あぐらかいて。おう、やだ、やだ!…」と愚痴られている。(→「規範的な女」からはみ出してるって言いたいんだな、と思う。)


このおばさん、実は画家なのだが、親分を見るとさっそく「さ、おいで!」と、手首をぎゅっとつかんで「土蔵へつれこんで」しまうのである。
土蔵はアトリエになっているのだが、そこへ着くやいなや、

『さ、これをのんでから、はだかになってもらうかな』

『ひえ?』
とさすがの親分もびっくりぎょうてん

読んでるこっちもびっくりぎょうでん、ひえ?である。
なんせおばさんは

『(…)はずかしくない、はずかしくない、ふたりでふろにはいったと思えばいい。あちしもはだかになってやるから、安心しな、ほれ』

いうよりはやく、石松のおばさんはブラジャーをもぎとったのである。


のである!
、、ひどいわ!一方的に、そんな要求してきて、、


けれど、はだかになったおばさんは有無を言わさぬうちに親分をモデルとすることに成功し、それどころか、やがては親分をその気にさせることにも成功させ、こんな大胆な行動にも出るのだ。

『ボインのさきっちょがめりこんでるね。やっぱり、ぴっとはってなくちゃ!』
石松のおばさんはそういうと、いきなりボインの親分のボインそのものをぎゅうっとつかんで、マッサージした。


ひえ?、、こんなん読まされて、照れるわ、、。写真にしろ絵画にしろ、そういうもんかもしれないさ、しかし、、このおばさん、、自分も脱いでるのである。はだかなのである。


これは、女同士だから「ふろにはいったと思えばいい」という設定でした。しかしこの場面は、画家とモデルの場面です。「女ー同士」として風呂に同列横並びで入ってるのではなく、キャンパスをはさんで対面している。ここでの二人は、図としてはどうしても、はだかで向かい合っているのだ。いってみれば平行ではなくて交差の関係。平行と交差ではエネルギーが違うのではないか。ひえ?である。

こうしてはだかで向かい合わされたあげく、こんなマッサージまでされる親分、、

そのとき、ボインの親分のからだの中を、電気のようなものがつきぬけて、鳥はだがたった。それは、いま自分が有能な芸術家の創造欲をかきたてているのだという満足感のようなものだったかもしれないし、だれにもみせたことのないからだをそのまま、人の目にさらすことへの、少女らしいはじらいだったのかもしれない。

いや、それは、、いきなり自分の領域を侵されたことへのショックだったかもしれないでしょう。「いま自分が貪欲な大人の性欲をかきたてているのだという、(不当な)嫌悪感のようなものだった」かもしれないし。
それだののに、「女同士はそんなことありえない」という前提ゆえに、こんな邪悪な可能性はハナから排除されている。だって、この場面、「親分的にもOK」という同意の手続きがあったことすら感じさせないもの。つまり、邪悪の可能性がないので、同意手続きの必要性すら感じていない、そんな場面なのじゃ。


ああ、だがしかし、レズビアンを読み取りたいばかりに、これも採用せねばらなぬのか、、呪われたわたし!
、、と、わたしが自分を呪っているスキに、親分は
「世の中のおもわくなど考えずに、ひたすら創造の世界で自由に生きてるやり方に、感動さえ」覚えてしまう。このあとで海で泳いでいるときにも、この出来事を思い出しては、我を忘れ、ウットリしてるのである。
しかも、おばさんはこんなことまで言いよるのだ。

「ねえ、親分、あんた女に生まれたことをしあわせだと思ったことがあるかい。自分のからだを見てごらん。どこを見たって美しいと思うだろ。…」


ああ、おばさま〜!(といっても、この「おばさん」わたしより若いんだろうな。)


っていうか、わたし何やってんだ、、、